「2025年版」UCI新ルール、ギア比(展開長)の制限について

新ルール概要:「展開長」規制とは?
UCIは2025年後半の一部ステージレースを皮切りに、ギア比の「上限」=展開長の最大制限を試験導入し、2026年1月1日より本格施行を予定しています。
制限内容(2026年施行予定)
- 最大展開長:10.46メートル
- 対応する代表的なギア比:54T × 11T
つまり、それ以上のギア(例:54×10、55×11、56×10など)は使用不可になります。
展開長とは?
展開長(development)は、クランク1回転でバイクが前進する距離のこと。
これはチェーンリングの歯数とスプロケットの歯数、そしてホイール径によって決まります。
例
54Tチェーンリング × 11Tスプロケット × 700cホイール
→ 約10.46 m の展開長
より大きな展開長=より高いギア=より高速向きという設計になります。
なぜUCIは展開長を制限するのか?
1. ダウンヒルスプリントでの速度過多
近年、スプリンターが平坦下りで時速85km超を叩き出すなど、「人間の限界」を超えた加速力が出始めており、特に終盤のスプリントで「物理的限界よりもメカニカルな暴走状態」に近い状況が散見されました。
2. ディスクブレーキ化による“安全神話の崩壊”
「速くなっても止まれるから大丈夫」という安全論は、実際には群集の中では意味をなさない。とともに、集団スプリントでは誰かがわずかにバランスを崩すと時速80kmでの多重クラッシュが発生しやすくなっている。という状態があります。
3. メカの差=勝敗を決する時代への懸念
SRAMの10Tスプロケットなど、一部の機材セットだけが“最大ギア”を持てる状態になりつつあり、「選手の脚」ではなく「メカニックの選択」で勝敗が左右されかねないという公平性の問題も浮上していました。
技術的・競技的な影響
▸ 機材選びの見直しが必要に
- SRAMの10T付きカセット(例:10-28Tなど)は事実上「UCI非適合」となり、一部コンポ構成が再設計を迫られる。
- トラック競技と異なり、ロードではリア12速でもトップギアが11T以下に限定されるのは大きな設計制約。
▸ スプリンターのレース戦略に影響
- 速度の伸びが封じられるため、純粋な出力勝負へ
- 下り坂での先行逃げ切りは困難になり、「位置取り」と「タイミング」がより重要に
選手・チームの反応と矛盾点
賛成意見
- 「人間的限界を尊重する競技に戻してほしい」というレジェンド選手の声
- 「事故を防ぎ、命を守るためには必要」という医療スタッフの評価
批判的意見
- 「なぜ“制限”が前提で、“自由と工夫”が否定されるのか?」
- 「ジュニアではなくエリートカテゴリの脚を制限するのは逆行では?」
- 「機材規制はメカよりポジションや姿勢を見直すべきだ」というバイオメカニクス的視点もある
今後の注目ポイント
ギア比規制の測定方式
- レース前に検車で計測するのか?
- チェーンリング刻印だけで判断するのか?
- ロードにおける“展開長の可視化”は現場で混乱を招く可能性あり。
例外規定の有無
- ITT(個人タイムトライアル)での適用除外はあるのか?
- U23や女子カテゴリに同様の制限が課されるか?
コンポメーカーの再設計動向
- SRAM、Shimano、Campagnoloがそれぞれどのように対応するかは注目。
- 特にSRAMはトップ10Tを主軸に展開していたため、設計思想の見直しが必須に。
まとめ:「速すぎる時代」に問われる限界の哲学
このギア比制限は単なる「メカニカルな上限設定」ではなく、スピードと安全のバランス、選手と機材の役割、そして“ロードレースとは何か”という競技哲学の見直しを迫るものです。
今後レースの戦略性は「出力勝負」から「知能戦」へと変化していく可能性があり、選手・チーム・ファンすべてにとってロードレースのあり方を再考させる重要なルール改正となるでしょう。